プロが語る、亡くなった方そばにおく手元供養


亡くなった方の遺骨を自分たちのそばに置いておく手元供養が人気です。
さまざまな事情でお墓を建てられない人たちが、それでも手を合わす場所として遺骨を大切にすることの表れではないでしょうか。
しかし、これまで遺骨はお墓に納骨するのが当たり前でしたから、中にはこの新しい葬法に不安を持つ人がいるのも事実です。
この記事では、手元供養についてよく分からないという方のために、分かりやすく、丁寧にご説明いたします。
 
【手元供養が増えている3つの理由】
 
まずは、どうして手元供養が増えているのか、その理由や背景について考えます。
供養の多様化にともない、墓石だけでなく、樹木葬や永代供養など、さまざまな葬法が注目を浴びていますが、手元供養もそのうちのひとつです。
手元供養が増えている理由は次の3つにまとめられるでしょう。
 
●ライフスタイルの多様化による墓離れ
墓離れが急速に進んでいます。従来の供養の方法が現代のライフスタイルにマッチしなくなったのが主な原因です。
たとえば、祖父母は九州、子は東京、孫は外国で暮らすという世帯も珍しくない時代です。
この家族が、九州のお墓を大切に守り続けられるかというと、きっと物理的に無理でしょう。
これまでの供養は、お寺であれお墓であれ、「土地」に根差してきました。
「ずっとそこにある」というのが大きな価値だったのです。
いまは、ずっと同じ場所にとどまるのではなく、人が自由に行き交うことのできる時代です。
現代人にとって、お墓が持つ死生観は不向きになっているのかもしれません。
 
 
●供養の多様化による檀家制度の崩壊
これも墓離れに通じる話です。
従来、遺骨はお墓に、そして自宅に仏壇を構えて死者や先祖を供養してきました。
お寺(菩提寺)と家(檀家)は、「檀家関係」によって結ばれ、その家の死者や先祖の供養は菩提寺が独占的に取り仕切りました。
江戸時代に始まったこの制度は今の世の中でもいまだに根強く残っていますが、社会構造の変化や死生観の変化により、檀家制度も維持できなくなっています。
仏壇や墓は、まさに菩提寺との結びつきを象徴するものでしたが、寺離れが進むことで、墓や仏壇を持たず、つまり特定の宗教に捉われずに、自分らしく故人様に手を合わせたいと考える人が増えてきました。
手元供養は、まさにその「自分らしく」を形にできる葬法なのです。
 
 
●「ずっとそばにいたい」という想い
先に挙げた2つの理由は、仏壇やお墓の代わりに、手元供養を選ぶというものでした。
しかし、仏壇もある、お墓もある、それでも手元供養をしたいと考える人もいるのです。
 
肌身離さず故人様と一緒にいたいと願う人
・仏壇やお墓は本家がみてくれているけれど、自分の家にも何かしらの手を合わせる場所が欲しい人。
 
宗教や形式に従いながらも、それでも「ずっとそばにいたい」という想いを叶えてくれるのが手元供養なのです。

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【手元供養 さまざまなアイテム】
 
手元供養のアイテムは、暮らしの中で違和感なく故人様を感じられるように、デザイン性や機能性に富み、かつ心を込めて手を合わせられるように作られています。
主に「加工型」と「納骨型」の2つに分けられます。
 
●加工型
加工型とは、遺骨を用いてオブジェや遺品を作るタイプのものです。遺骨をうわぐすりの一部として作られた陶器や、遺骨から生成されて作られたダイヤモンドジュエリーなどがあります。
 
●納骨型
納骨型とは、遺骨を容器の中に移します。
仏壇や、ステージなどに置くミニ骨壺や、肌に身につけておく遺骨ペンダントなどがあります。
 
【手を合わす対象は、遺骨、位牌、遺影】
 
私たちは、故人様を偲ぶためになんらかの「モノ」を必要とします。
従来は、故人様の依代(よりしろ:死者の霊が依りつく場所や物」として位牌というモノが用いられました。
「信仰心がないから、お寺も仏壇も必要ない。もちろん位牌も不要だ」
こう考える人でも、しかしいざ大切な人が亡くなってしまうと、その人と向き合うために、その人を表す、あるいは思い出させてくれる「モノ」を必要とします。
大事なのは、そのモノが故人様を思い出させてくれるかどうかです。
手元供養をする上で、故人様を偲ぶものとして選ばれるのが、遺骨や、位牌や、遺影です。


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●遺骨
遺骨は骨壺に納めて安置します。
火葬場が用意する骨壺は陶器のシンプルなものばかりです。
手元供養として用いられる骨壺は、数え切れないほどにたくさんの、おしゃれで、素敵な商品が出回っています。
生活空間の中で違和感がないように、明るく、デザイン性に富んだ骨壺が人気です。
 
●位牌
位牌のデザインもさまざまで、モダンなものが人気のようです。
スタイリッシュなデザインからクリスタルまで。
刻印する文字も、戒名などではなく、故人様の生前の名前、あるいは象徴的な言葉、さらには画像を転写できる位牌もあります。
 
●遺影
昔の家では、黒い額に白黒の遺影写真を、仏間の長押に掛けて吊るしたものです。
最近の遺影は、葬儀で使用するものも明るく華やかなものが選ばれています。
また、それにあわせて、故人様を明るく飾れる写真額や、写真が飾れる仏壇やステージも販売されています。
 
●ミニ仏壇・オープンステージ
これらを安置するためのミニ仏壇やオープンステージも人気です。
また、市販のものを購入せずとも、敷物を敷き、遺骨や遺影や位牌を並べ、そこにお花やお供え物をするだけで、充分立派な祈りの空間が出来上がります。
 
 
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金剛宝寺 手元供養 ソウルリング

 
【遺骨の行き先】
 
手元供養の多くは、遺骨の一部を取り出して、手元で大事に供養します。
では、それ以外の遺骨はどこに納めればいいのでしょうか。
 
●お墓
お墓がある人は、お墓の中に埋葬しましょう。
 
●永代供養
寺院や霊園に遺骨を預けて永代供養してもらうという方法もあります。
 
●本山納骨
それぞれの宗派の本山寺院に納骨するという慣習は古くからあります。真言宗の高野山や、浄土真宗の本願寺などがとくに有名です。お墓がない、頼るお寺がないという人は、本山に遺骨を預けるのもよいかもしれません。
 
【手元供養 故人様とずっとそばにいたいと願う人のために】
 
「故人様のそばにずっといたい」
「仏壇ほど大きくなくていいから、手を合わす場所が欲しい」
私たち人間は、亡くなった人を偲びながら生きていくものです。
その存在が消えてなくなったとしても、記憶や思い出の中ではっきりと生き続けます。
時代が変われど、亡き人を想う人の気持ちは変わりません。
だからこそ、故人様を身近に感じられる手元供養が注目されているのでしょう。

文責・十村井満